「生きている」その3-2 小川茂年氏

<<生きている>>その3-2 小川茂年氏
「食養の道」1979年12月号  月刊「生きている」よりおもいきった抜粋
(文責 阿部一理)

自然食と正食

自然食と正食とは、どこが違うのか?

自然食とは、現代の加工され、精白され、汚染され、これ見よがしな形や色や匂いで人間の欲望を釣る食品の反動として生まれた言葉です。

自然食とは、人間に悪影響を及ぼすものに対し、その悪いところだけ直そうという態度です。

悪いところさえ直せば、それでよいという考えです。

害や欠点だけを見る世界であり、生命の論理として世界観とはほど遠い感じをもたれるに違いありません。

正食とは、生命の秩序を食によって発見し、自覚し、行動する宇宙の連続体としての人間のあり方を教えるものです。

宇宙は生命であり、その生命の生成変転は、無の発動があり、二極に分化し、エネルギーや振動や混沌を経験し、大地の呼吸に応じ、植物の親しさから己の故郷への思いを寄せる。

古人が言った「神と偕(とも)にあり」神よって生成していく人間のあり方を示すものが「正食」の意味なのです。

秩序と料理

種子が固い大地を破って芽吹くとき、合掌した姿で現れてきます。

それが双葉に拡がり、空気に触れ、太陽のやさしい笑みをうつすと、芽を覆っていた殻は、大地に落ち、母なる故里に帰ります。

静かに、無心の感動が朝の空気にみちてきます。

天と地の構成による植物は、天に対して茎や葉や花となり、地に向かっては根となります。

上に向かうひろがりと下に向かう拡がりを、今度は人間が取り入れると頭が足になります。頭が天の波長を受け、足が地のエネルギーを吸収するのですが、
植物とは養分の摂り入れ方の方向が反対です。

頭が根となり、その中心は口です。

人の生命はこの口で統一され、成す、為す、行すのです。

生とはこの拡がりで、求心力と遠心力です。

種子は、その中に植物の全部(成長と完熟と保全)を持っています。

求心性の表現です。この種子の特長が、人間をつくだし、その代表が穀物です。

活動力の源泉としてデンプンを中心に、構成材料としてのタンパク質と、調制作用の脂肪と、安全弁としてのミネラルやビタミンを含んだ固いものです。

固く小さくなるものこそ原則として求心力が大です。

そして、この求心力が大なるほど、生命力の強い栄養素が含まれているのです。

穀類は大地に立つ人間に似ています。

頭脳は穀粒に対応し、天の声をきく受信器となり、足は根に対応し、大地のエネルギーと活動の根源となっています。

直立した茎と躯幹は大地と大気を結ぶ栄養器官となっています。

ただ静と動と方向の違いがあるだけです。

すなわち食物の違いです。

植物はものすごい速度で動いている大地にしっかり根をおろして大地の養分と太陽の力で生きています。

人間は植物に包まれているのです。人間はこの植物から出ることは出来ないのです。

これが人間の生に与えられている本質であり、現代最も必要とされる智慧なのです。この智慧こそ料理なのです。

料理とは、植物から人間への変化という宇宙の生成の過程を認識してその自覚から生まれた技術です。

料理は創造であり変化で、それらを生み出すものとして相対的な二つの関連的なものが必要となっています。

変化は常に反対のもになる現れをもち、二つのものの結びと、同種のものの反発をもたらします。

料理は植物(陰)を動物化(陽)することです。

原則として陽の要素を使います。

陽の要素には、①時間②圧力③塩④火⑤乾燥等があります。

陰の要素には、①冷やす②かきまわす③やわらかくする 等です。

人間も、かっかしてのぼせて怒る事はしばしばですが、冷静な考え方が難しいのと同じです。

しかし陰が過ぎると、陽が過ぎると同様にあまりよくありません。

※肉食主義の白人と、薯(いも)と果肉を主にとる黒人との関係は、いろいろなことを教えてくれるでしょう。

中庸は穀類です。

穀類を「火」と「水」で「炊く」ということがどんなに重要な意味をもっているかが判るでしょう。

陰を陽にする場合、火を使いますが①揚げる②炒める③焼く④煮込む⑤ゆでる 等々で陽性化にも差が出来ます。

食物の陰陽度や環境やその人の状態によって適時応用するのです。

例えば小豆と大豆です。

アズキは陽性ですから冷水から煮ます。

ダイズは陰性ですから熱湯と共に魔法ビンの中へ一晩おくだけでも柔らかくなります。

ナスは、極陰性ですが陽性化(直接火で焼く)することで、陰をとりのぞくと極陽のナス黒焼き粉ができるのも面白いでしょう。

<<阿部一理より一言>>
梅干しは陽性な食べ物の代表の1つですが元の青梅は極陰です。

青酸も多く、決してそのまま食べられるものではありません。

腹痛の原因となったりします。

それが、雨に当らないように夜干し、塩漬けを長い時間をかけて陽に変化させた絶品の胃腸薬に大変身致します。

すべてのものは、常に陰と陽ともっていて陰か陽かに働きを変えるのです。

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