「エミール」その2

フランスの哲学者ジャン・ジャック・ルソー(1712年~1778年)の「エミール」(岩波文庫)の上巻より、一部抜粋した言葉です。

※子供をめぐる教育論について「学校教育」ではなく「家庭教育」としての内容です。

こまごま世話をしてやって育てた子供のほうが、そうでない子供より死ぬ率がずっと大きい。

子供の力の限界を越えさえしなければ、力を使わせた方が使わせないより危険が少ない。

だから、いずれ耐えなければならない攻撃になれさせるがいい。

不順な季節、風土、環境、飢え、渇き、疲労にたいして、かれらの体を鍛錬させるがいい。(42頁)

虚弱な肉体は魂を弱める。

そこで医学が権威をもつことになる。

医学はそれが治療すると称するすべての病気よりも人間にとっていっそう有害な技術だ。

わたしは医者がどんな病気を治してくれるのかは知らない。

しかし、医者が非常に有害な病気をもたらすことを知っている。

臆病、卑怯、迷信、死に対する恐怖などがそれだ。

医者は肉体をなおしても、心を殺してしまう。

彼らが死体を歩かせたところでなんの役にたつのか。

わたしたちに必要なのは人間だ。

人間が医者の手から出てくるのを見たことは無い。(56頁)

医学がこんにち大変はやっている。それも当然だ。

それはひまで仕事のない人間のなぐさみごとなのだ。

そういう人間はどうして時間をつぶしていいいかわからないので、自分の体を守るために時間を費やしている。

不孝にして死なないものとして生まれていたら、かれらは、あらゆる生き物の中で一番みじめな者になるだろう。

けっして失う心配のない生命は、かれらにとってはなんの値うちもない。

こういう人たちには、医者が必要なのだ。

医者はかれらを脅かして、慰めてくれる。

そして、かれらが感じることの出来るただ一つの喜び、まだ死なないという喜びを毎日与えてくれる。

私はここで、医学のむなしさについてながながと述べるつもりはない。(56頁)

医者がほどこす治療の利益と医者が殺す多くの病人の死とを秤にかけてみなければならないのに、それが人々には判らないのだ。(56頁)

賢明なロックは、その生涯のある時期を医学の研究にすごしたが、用心のためにも軽い病気のためにも、子供にはけっして薬を与えないようにと熱心にすすめている。

わたしはそれ以上のことを言いたい。

そして、自分の為にはけっして医者を呼ばない事にしている私は、エミールのためにもけっして医者を呼ばない事にするとはっきり言っておく。(58頁)

動物は病気の時、なにもいわずに我慢して静かにしている。

ところが人間ほど病弱な動物はいない。

病気が殺しもせず、時の力をかりるだけで治ったはずの人間を、忍耐の乏しさ、心配、不安、そしてなによりも薬が、どれほど殺してしまったことだろう。(59頁)

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