ご存知ですか!『日本が売れらる』

国際ジャーナリスト・堤未果さんの報告には心が寒くなりました。2018105日初版発行の『日本が売られる』(幻冬舎新書、860円、税別)です。 

 

 いつの間にかどんどん売れられる日本!と題した、前書きからして衝撃です。 

『貧困大国アメリカ』(岩波新書)シリーズの取材で出会った26歳ジェラルド・ブレイザー元米兵の語りからどうぞ・・・。実は彼は3年前イラクから帰還していたのでした。 

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 戦場では敵がどこに潜んでいるかの情報がないから、油断すると命取りになる。 

 自分の周りが静かだから平和だろうと思い込むのが、最も危ない状態だ。木ばかり見ていると森は見えない。遠くのわかりやすい敵に気を取られ、近くにいる一番危険な敵を見落とせば、気づいた時には全方位囲まれ、あっという間にやられてしまう。 

 除隊した今でも、その感覚は残っているのかと私が聞くと、ジェラルドはゆっくりとうなずいた。 

 

「イラクにいる時、あの戦争がテロ撲滅じゃなく石油のためで、米国民の生活を犠牲にして金儲けをしている連中がいると気付いた兵士たちがいた。俺たちは帰国してから、あちこちでそのことを訴えてきたけど、オバマ大統領が誕生すると有権者の多くはもう忘れてしまった。 

 今はマスコミの凄まじいトランプ叩きで、対立が激化した保守とリベラルはヘイトスピーチ合戦に夢中、他のことは全然見ようとしない。理由はよくわからないが、俺たちが訴えている〈本当の敵〉は、いつの間にか有権者の視界から消えてしまったよ」 

 ジェラルドはこの時知ったのだった。 

 

 国民の忘却力と、それを加速させる恐ろしいほど強大な、マスコミの力というものを。 

 あの日冷房の効いた店内で、ジェラルドは日本に行きたいと私に告げた。動画サイトのネットフリックスで、日本のアニメにハマったと言う。 

 「日本には前から行きたかったんだ。水と安全がタダで、どこへ行っても美味しい食べ物があるなんて最高だ。災害の時でも略奪しないで行儀よく列に並ぶ日本人の姿をネットで見た時は、本当に衝撃的だった。俺の友人にも、日本に住みたいって言うやつがたくさんいるよ。日本は今人手が足りなくて、外国人でも3ケ月住めば医療保険に入れるんだろう? 

病気になると破産するリスクがあるアメリカにいるより、日本で仕事を見つける方が心配なく暮らせるだろうな」 

「アメリカより日本に住む方が、安心して暮らせると?」 

「そう。アメリカでは保育も介護も学校も病院も、今じゃまともに暮らすためのものが全部贅沢品になっているから。売国政府が俺たち国民の生活に値札をつけて、ウォール街と企業に売りまくっているからね。」 

 

 ジェラルドがいう売国とは、「自国民の生活の基礎を解体し、外国に売り払うこと」を指している自国民の命や安全や暮らしに関わる、水道、農地、種子、警察、消防、物流、教育、福祉、医療、土地などのモノやサービスを安定供給する責任を放棄して、市場を開放し、外国人にビジネスとして差し出すことだ。 

 冷戦後、戦争の舞台は金融市場へと移り、デリバティブがあらゆるものを国境を越えた投資商品にした。エネルギー、温暖化ガス排出権、国家の破産、食糧、水などが投機の対象になり、外交では他国への攻撃力を持つ新しい大量破壊兵器になる。 

 多国籍企業群は民間商品だけではなく公共財産にも触手を伸ばし、土地や水道、空港に鉄道、森林や学校、病院、刑務所、福祉施設に老人ホームなどがオークションにかけられ、最高値で落札した企業の手に落ちるようになった。 

 企業は税金を使いながら利益を吸い上げトラブルがあったら、責任は自治体に負わせて速やかに国外に撤退する。水源の枯渇や土壌汚染、ハゲ山や住民の健康被害や教育難民、技術の流出や労働者の賃金低下など本来企業が支払うべき〈社会的コスト〉の請求書は、納税者に押し付けられるのだ。 

   

 かつて経済学者たちが眉をひそめて問題視した「資本主義の社会的費用」は、今では取るに足らないことになった。このビジネスモデルは世界銀行やIMF(国際通貨基金)などの国際機関によって、これまで力の弱い途上国に強要されていたが、今やジェラルドのいうように、アメリカを始めアジアやヨーロッパの先進国でも、グローバル企業と癒着した政府から自国民に仕掛けられている。 

 

 日本でもアメリカと同じように、2016年以降テレビ・新聞の異常なトランプ叩きが続き、この間私のところにも、報道されないトランプ大統領の実態を書いてほしいという依頼がいくつもきた。 

 ある編集者は私に言った。 

「トランプの正体を見極めると同時に、アメリカと相対する北朝鮮など、敵の動きをしっかり把握しなければ、日本が本当に危ないですからね」 

 だが、本当にそうだろうか? 

 この手の話を聞くたびに、あの夏のジェラルドの言葉が蘇り、私の中の違和感が、どんどん大きくなってゆく。 

 「遠くのわかりやすい敵に気を取られ、近くいる一番危険な敵を見落とせば、気づいた時には全方位囲まれ、あっという間にやられてしまう」 

 今私たちは、トランプや金正恩などのわかりやすい敵に目を奪われて、すぐ近くで息を潜めながら、大切なものを奪ってゆく別のものの存在を、見落しているのではないか。 

 

 9.11の後、「今だけカネだけ自分だけ」で突き進むウォール街の価値観に嫌気がさして、私は日本に帰国した。 

 若い米兵たちが憧れる、水と安全が保障され、どこへ行っても安全で美味しい食べ物が手に入り、病気になれば誰でもまともな治療が受けられる素晴らしい国。テレビをつければ外国人タレントがこぞってその良さを持ち上げる番組が不自然なほど大量に流され、私たちの自尊心をくすぐってくる。 

 だがそんな日本が、実は今猛スピードで内側から崩されていることに、一体どれほどの人が気づいているだろう? 

 次々に売られてゆく大切なものは、絶え間なく届けられる派手なニュースにかき消され、流れてゆく日常に埋もれて、見えなくなってしまっている。  

 ジェラルドのいた戦場と同じように、木だけを見て森を見なければ、本当に立ち向かうべきものは、その姿を現さない。 

 ならば、と私は思った。今、それを書いてみよう。 

 この本を手に取ってくれた読者と共に、忘れられた過去や、知らぬ間に変えられたものを一つずつ拾い上げ、それらを全てつなげることで霧が晴れるようにその全体像を現す、私たち日本人にとって、最大の危機を知るために。 

  

  1. ◇ ◆ 目次 ◆ ◇ ◆ 

まえがき  

いつの間にかどんどん売られる日本!! 

第一章 日本人の資産が売られる 

  1. 水が売られる 
  1. 土が売られる 
  1. タネが売られる 
  1. ミツバチの命が売られる 
  1. 食の選択肢が売られる 
  1. 牛乳が売られる 
  1. 農地が売られる 
  1. 森が売られる 
  1. 海が売られる 
  1. 築地が売られる 

 

第二章 日本人の未来が売られる 

  1. 労働者が売られる 
  1. 日本人の仕事が売れらる 
  1. ブラック企業対策が売られる 
  1. ギャンブルが売られる 
  1. 学校が売られる 
  1. 医療が売られる 
  1. 老後が売られる 
  1. 個人情報が売られる 

 

第三章売られたものは取り返せ 

  1. お笑い芸人の草の根政治革命~イタリア 
  1. 92歳の首相が消費税廃止~マレーシア 
  1. 有機農業大国となり、ハゲタカたちから国を守る~ロシア 
  1. 巨大水企業のふるさとで水道公営化を叫ぶ~フランス 
  1. 考える消費者と協同組合の最強タッグ~スイス 
  1. 子供を農薬から守る母親たち~アメリカ 

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阿部一理 記 

 私はこの度、堤未果さんの3部作の第一を紹介させて頂きました。こんなに簡単に土地を売る国が世界中にありますか? 

 札幌の自然食品店 まほろばのオーナー宮下周平氏が嘆いたものでした。 

一家に一冊 みんなで読んで欲しいです。 

 そして、堤未果さんの第二作は『デジタルファシズム』(NHK出版、2021830日初版 

880円、税別)です。 

 その表紙には次のようにありました。 

― 日本の資産と主権が消える 

― 街も給与も教育も米中の支配下に!? 

― この国を売っているのは誰だ。 

次回に取り上げます。 

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