西原克成先生は、人が寝る姿として、上向きになって手足を伸ばし、全身の筋肉を脱力して【重力から解放】眠る寝方を「骨休め」と言っています。
海中の魚類が陸上へ上がった、いわゆる上陸劇で鰓呼吸から肺呼吸に大変身し、全身に血液を送り届けるために、血圧を上げ温血動物となり、眠るときの骨休めによって、真の休息を取ることの重要さを、圧力というエネルギーの点から理解させてくれました。
前回までの温度というエネルギーを理解することと並んで、座って眠るとか、睡眠時間を削るなどというのは、もってのホカだと言われます。
『三木成夫を読み解く』西原克成著は、本当にスゴイ感動の、人類初の海からの上陸劇を明らかにしたものです。
私 阿部一理ごときが紹介するような身分ではないのですが、こんなすごい研究が、ほとんど世の中に知られていないことにも驚きます。水の中の重力より、大気中の重力が6倍も大きく、このことが生物に与えることの重大さが、すべての生命科学や医学に抜け落ちていたなんて・・・。
文中の『おれたちの先祖は、みよ!!!このとおり鰓(えら)を持ったフカだったのだ!!』
のくだりは圧巻です。何度も何度も読み返して見て下さい。
胎児は、お母さんのおなかの中で全員、その歴史を再現してきているのです。私達は、生命誕生の太古から延々と行き続けている証があるのです。
しかもその中で『上陸劇』の凄まじさ、といったらありません。
サァ『三木劇場』を是非垣間見て欲しいと思います。
そして感動を味わって下さい。ここまでくると宗教もマッ青です。胎児の歴史ほどフシギで神秘的で、そして重要なことは、この世にないと思いますので・・・。
以下少し長い文章ですが、河出書房新社刊『生命記憶を探る旅――三木成夫を読み解く』西原克成著の序章「胎児の世界が指し示す生命の歴史」から最初の5頁を引用させて頂きます。
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■三木形態学
二本の柱
筆者(西原先生)は、いまの文明は、このままいったらまちがいなく滅びてしまうだろうと思っています。なぜなら「進化」にはポジティブな側面ばかりではなく、「滅びに至る進化」というのもあると考えているからです。
その過程は「退行進化」ともいわれますが、ほんとうのところは誰にもわかっていません。
それは、動物の進化をひき起こす「原因子」、すなわち推進力となる「エネルギー」のことが、学術的には、まったく明らかにされていないためです。
現代のライフサイエンスと医学の根本的な考えのなかでは、「質量のないエネルギー」というものが、ほぼ完璧に忘れ去られています。にもかかわらず、世界じゅうの学者は、このことにほとんど気づいていません。
しかし、20世紀までの医学者・生物学者のなかには、数えるほどではありますが、それに気づいていた人たちもいました。そのひとりが、筆者の師でもある、三木成夫先生(1925~1987年)です。
多少なりとも科学に興味をおもちの皆さんは、「個体発生は系統発生をくり返す」という、ドイツの生物学者であり哲学者でもあった、ヘッケル(1834~1919年)のことばを、これまで一度くらいは聞いたことがあると思います。つまり受精卵が成体になる過程と、生物の種が進化の過程で経てきた形態変化が並行関係にある、ということです。
三木成夫先生の確立された、いわゆる「三木形態学」には、ふたつの大きな柱があります。そのひとつが、脊髄動物の「個体発生学」です。
これは、受精卵が子宮内で育ち、母体から生まれ落ちるまでの胎児のかたちと器官のはたらきの変化を研究する学問で、胎児の姿とかたち(形態)が、日ごとに変わっていくさまを研究する学問です。
もうひとつは、動物種の進化のみちすじを示す学問である「系統発生学」です。これには、脊椎動物における「進化のステージを示す革命紀」として
1 揺籃期(ようらんき)=原索類の誕生
2 原初の革命=「遺伝子重複」と「頭進」
3 第一革命=棘魚(きよくぎょ)類の誕生
4 第二革命=海から陸への上陸劇
5 第三革命=哺乳類の誕生
6 第四革命=ヒトの誕生
があるとし、これら各ステージを代表する動物種の、各器官のはたらきと形態の変化を研究するもので、「比較解剖学」(形態学)とも呼ばれる学問です。
三木成夫先生は、このふたつの学問を統合。「個体発生学」における胎児のかたちの変化を比較しながら、その「形態変容」の原動力となるエネルギーの法則性を明らかにすることを試みるという、画期的な研究をおこなっていたのです。
■5億年の進化をなぞって生まれ出る胎児
その手法は、進化の各ステージを代表する両生類や爬虫類、鳥類(ニワトリ)、哺乳類の、生きたままの胎児の心臓に墨汁を注入し、その循環系を中心として観察するというものでした。
超ロングセラーであり、1983年の刊行いらい、現在も読み継がれているのが三木先生の『胎児の世界』(中公新書)です。そこには、爬虫類、鳥類、哺乳類に至る進化の各ステージの経過が、母胎における『個体発生』の過程において、脊椎動物5億年の『生命記憶』として、あたかもまぼろしのごとく、超スピードで再現されることが記されています。
この、生きた胎児の心臓に墨汁を注入するという手法による「個体発生」の研究の過程で、いずれのケースでも、ただの1回だけ、あるきまった時期に起こった出来事があります。胎児が、まるで発生途上における「病気」のごとく、「息もたえだえに、必死になって、何かあるものに耐えている姿があった」というのです。
これを乗り切ると再び胎児は元気を取り戻し、これまでの魚形の「胎児エンブリオ」から、爬虫類、鳥類、哺乳類形の「胎児フィータス」に、ほんの短時間のうちに変身します。つまり、胎児が魚であることをやめる、急な「変態」の起きるのがこの時期なのです。
きのうまで観察していた「フカ(=サメ)形」の胎児が、息もたえだえの「発生途上の病気」を過ぎると、ほんの短時間のうちにヒヨコのような、くちばしをもつ姿に変身していたのです。
これをまのあたりにして、三木先生は『なんだこりゃ!!きのうまで眺めていたあれは、いったい何だったのか・・・・』と茫然自失。衰弱のどん底から、小半時で劇的に変身した姿を見て拍子抜けした三木先生は、きのうまでのことは夢のまた夢とばかりに感嘆されました。
しかし、これらの標本を切片にし、くわしく観察して、「デポン紀の上陸劇」が「生命記憶」によって、環境因子まで含めてまぼろしのごとくに胎内で再現されたことを体感し、この世界の底知れぬ深さを悟ったのでした。
三木先生は、この瞬間を「おれたちの先祖は、見よ!!!このとおり鰓(えら)を持った鱶(ふか)だったのだ!!!」
と記しています。
この「発生途上の病気」こそ、「系統発生」における「デポン紀の第二革命」、原始脊髄動物であるフカ(=サメ)が『上陸劇』における過酷な環境変化に耐えている姿であり、胎児の姿もそれに重なることを、三木先生は身をもって理解されたのでした。
筆者も、このくだりを読んでこのことを体感しました。多くの人がこれを体得しさえすれば、医学も生命科学も、根底からひっくり返ってしまうのです。
ずっとのちになって筆者は、この過酷な環境変化というのは、まさに水中で浮力に相殺された6分の1G(G=地球の重力)から地上の1Gへの『重力作用の6倍化』という変化、そのものだということをつきとめました。
ここには数億年になんなんとする、脊椎動物の進化の過程が凝縮されていることを、筆者は腹の底から知ったのでした。
この『系統発生』における最大の出来事、つまり『脊椎動物の上陸劇』を『環境因子』と言われる物質面とエネルギー面の両面からくわしく解析すれば、進化を引き起こす『推進力』(エネルギー)が、おのずと明らかとなります。
以下 略
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阿部一理 記
重力から解放されて、大の字になって寝ることの重要さを理解するのに、発生学が関係していたことは、本当に驚きでした。
『冷え中毒』『口の呼吸』を止めることと、今回の『骨休め』の三点は、本当に目からウロコでした。