真珠湾攻撃のIF(もし)

 私は前回、終戦がせめて1年早かったならば、どれだけ多くの人の犠牲が避けられたか、という「歴史のIF(もし)」を書きましたが、今回はもっと早い時期に焦点を当てた「歴史のIF(もし)」を取り上げてみます。 

 

 元外務省国際情報局長の孫崎享(まごさき うける)氏の『日米開戦の正体・なぜ真珠湾攻撃という道を歩んだのか』(祥伝社、平成27520日初版)500ページを超す労作です。 

 なぜ、日本は勝てる見込みのない戦いを仕掛けたのか?「史上最悪の愚策」と断じて解き明かしています僅か80年ほど前のことなのに日本人は余りにも真実を知らない、イヤ知ろうともしていません。 

 氏は生命(いのち)がけで、ベストセラー『戦後史の正体』(創元社)を世に出し、またまたそれに続く衝撃の書が本書であります。 

帯には 

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日米戦争が決定的になるのは、1941年7月2日の御前会議において正式に 

裁可された日本軍の南部仏印進駐でした。 

この時から真珠湾攻撃までの最後の159日間で、 

この流れが確定します。 

それでも、この時点では日米戦争は回避が可能でした。 

歴史にはさまざまな『IF』があります。 

いろいろな選択肢があったのに、 

なぜ私たちは真珠湾攻撃という愚かな道を 

進まなくてはならなかったのでしょう。 

戦後70年の今こそ、この戦争の正体を考える。 

 

◆これまで、日露戦争から真珠湾までの歴史について、 

数多くの本が書かれてきましたが、 

私は「なぜ真珠湾攻撃という愚かな道を歩んだか」 

という視点に絞りました。それによって 

明確な糸が見えると考えたからです。この本では、 

できるだけ多く、当時の人々の発言を紹介していきます。 

後世の人間が「後知恵」で解説するのでなくて、 

当時の人々自らの声で歴史を語ってもらいたいからです。 

そして歴史にはいろんな選択肢があった、異なった道があった、 

その中でなぜ真珠湾攻撃という 

選択をしたのかを考えてほしいのです。 

 

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少し長いですが「はじめに」の一部をご紹介させて頂きます。 

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===略=== 

 では、今、なぜ「真珠湾攻撃という愚かな選択をしたか」について書こうと思ったか。それは今の日本が、日露戦争から真珠湾攻撃へ至る「いつか来た道」を歩んでいると考えるからです。 

 なぜそう考えるのでしょう?まずその説明から始めたほうがいいと思います。 

私は今、日本の進む道に大変な危機感を持っています。 

原発の再稼働、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加、 

消費税の増税、集団的自衛権、特定秘密保護法など、 

これらは日本の生き方を根本的に変える動きです。 

 福島原発事故で、地震がとてつもない危険をもたらすことを示しました。しかし川内(せんだい)原発などの例に見られるように、日本は再稼働しようとしています。 

 また、TPPは日本の国家主権をなくしていく動きです。TPPは関税引き下げが一番の目的ではありません。外国企業の利益を確保することが最重要なのです。 

 政治の判断は人命や、健康や、低所得者保護や地方振興などさまざまな要因で行なわれます。 

 しかし、TPPは単純明快、企業の利益を確保することが唯一と言っていい基準です。TPP参加の国が法律や裁判所の判決や国家や地方自治体の行政で、人命や、健康や、低所得者保護や地方振興などを守ることを実施したとします。この政策で外国企業(米国が中心)の利益が侵されると想定されていたとするとどうなるでしょう。外国企業は、世界銀行傘下の仲裁裁判所に訴えます。この裁判所は、企業の利益が侵されたか否かの視点でのみで裁判します。人命を守るため必要だったか否かは問いません。そして巨額の賠償を求めます。一件、一億ドル以上の賠償金が求められるのです。 

 そして集団的自衛権は、日本を守ることと関係なく、自衛隊を米軍のために使わせる制度です。 

 宮崎礼壹(みやざきれいいち)元内閣法制局長官は、「世界」2014年8月号で、次のように断定しました。 

 集団的自衛権も「自衛権」というのだから、各国の持つ自己防衛権の一種ではないのか、と考えてしまう人が多い。しかし、違う。(略) 

 集団的自衛権とは、「自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、」「自国と密接な関係にある外国〔孫崎注:つまり米国〕に対する武力攻撃が起きた場合にこれを実力をもって阻止・反撃する国際法上の地位ないし権利」である。(〔略〕2004年6月18日政府答弁書)。(略)「自己防衛の権利」である「個別的自衛権」とは、定義からしても、実態から見ても、異質なものなのである。 

 宮崎礼壹氏は単なる評論家ではありません。政府の法律に最終的な責任を持ってきた元内閣法制局長官です。 

日本の政治を「最大多数の最大幸福」を求める物であると定義するならば、日本は今、逆の道を歩み始めました。 

 

なぜ、原発の再稼働、TPPへの参加、消費税の増税、集団的自衛権、特定秘密保護法など、日本の生き方を根本的に変える「戦後最悪の愚策」を行なおうとしているのでしょうか。 

 そしてこれらの政策を進める人々はこれら「戦後最悪の愚策」を推進するに当たって、その政策を「嘘」と「詭弁(きべん)」で固め、「嘘」が明確になっても、まったく平然としています。 

 原発にせよ、TPPにせよ、消費税の導入と放漫財政にせよ、集団的自衛権にせよ、国家的利益(この場合、最大多数の最大幸福を追求するのが国家の最高使命と定義します)の視点で考えれば、絶対に行なえない選択をしています。 

 実は怖いのは、この政策は自民党であれ、民主党であれ、安倍晋三首相であれ、その後に続く人が麻生太郎さんであれ、石破茂さんであれ、続いていきそうなのです。 

 明らかに間違った方向を日本がひたすら進む、どうしてそんなことが起こるのでしょうか。 

 ジャーナリストで政治学者であるカレン・ヴァン・ウォルフレン氏は日本研究の第一人者です。彼は2014年『日本に巣喰う4つの“怪物”』(井上実訳、角川学芸出版)という本を書きました。ここで彼は、 

「日本のメディアは(略)極めて重要な怪物である。(略)ほかの怪物たちを活性化させる役割を果たしているからだ。メディアの働きなしに、こうした怪物たちは現在のように脅威を与える存在には決してならなかっただろう。(略) 

 主流派メディアが当然果たすべき、不可欠な役割がある。それは、民主主義を守るということだ。 

 以前私は、日本に真の民主主義を実現させるうえで最大の障害は、おそらく日本の主要全国紙だろうとする見解を発表しことがいく度となくある」 

 と記載しました。 

 日本は今、大変な曲がり角にあります。 

 日本の社会の中に、おかしいと思う人がいないのでしょうか。 

 当然います。 

 社会のあちらこちらに、原発や、TPPや集団的自衛権に警告を発する人がいます。さらに、原発差し止めを司法の場に訴える人もいます。TPP交渉についても、交渉差し止め訴訟の動きがあります。集団的自衛権についても「国民安保法制懇」が2014年7月1日の「集団的自衛権は合意」とする閣議決定に反対の声明を行ないました。この会には何と、大森政輔(まさすけ)元内閣法制局長官や柳沢協二元防衛庁官房長まで入っています。 

 

 このように、今の動きをおかしいと述べる声はあります。 

 しかし、実際に物事を動かす政策決定の中枢部に行けば行くほど、思考停止をし、憑(つ)かれたように、愚策を追求しています。 

「こんな時代がなかったろうか」と考えてみると、まさにありました。 

 真珠湾攻撃のときです 

 当時、軍事産業の基盤となる製鉄生産高で日米の格差が1対10でした。さらにドイツと日本の動きに危機感を持ったルーズベルト米大統領は議会に航空機の生産を年5万機とすることを要請しています。 

 10倍も多い武器を作れる国に、こちらから戦争を仕掛けているのです。それも相手が日本に危害を加えたわけでもないのに、です。 

 日本が米国と戦争するなんて、あり得ない選択です。しかし日本はそれを実施しました。 

 「真珠湾攻撃の愚」と今日の「原発、TPP、消費税、集団的自衛権の愚」とを比較してみますと、驚くべき共通性があります。 

  1. 本質論が論議されないこと 
  2. 詭弁、嘘で重要政策がどんどん進められること 
  3. 本質論を説き、邪魔な人間と見なされる人は、どんどん排除されていくこと 

排斥するためには、戦前はテロという手段で物理的に抹殺しました。実に的確に重要人物を暗殺しています。今日はより巧妙です。邪魔な人間を政治の場、言論の場から排斥していきます。 

 一番簡単なのはポストから外すことです。さらにメディアを利用し、嘘、誇張で駆逐し、特定の人物の信用性を壊す、「人物破壊」という手段が使われています。 

 私は本書を書くに当たって、心掛けたことがあります。それは、「できるだけ当時の人の考えを紹介しよう」「考える材料を提供しよう」というものです。 

===(略)=== 

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そして 

『序章 なぜ今真珠湾への道を振り返るのか』 

20ページに非常に重要なことが明瞭に書かれています。 

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 ジェフリー・レコード著『アメリカはいかにして日本を追い詰めたか』(渡辺惣樹訳、草思社)という本があります。米国陸軍戦略研究所(U.S.Army War Collage,Strategic Studies Institute)内のレポートの訳です。この本の評価は別として、冒頭、米国陸軍戦略研究所所長ダグラス・C・ラブレースが言葉を寄せています。 

  

 日本が1941年に下した米国攻撃の決断はまったく合理性に欠け、ほとんど自殺行為であったと考えられている。アメリカは日本の10倍の工業生産力を持っていた。もちろん日本がアメリカ本土を攻撃することなど、できるものではない。そんな国と戦って日本は勝算があると考えたのだろうか。太平洋方面の戦争で我が国と戦えば、負けることはわかりきったことだった。日本がわが国と戦うと決めた歴史的事実をいったいどう説明したらよいのだろうか。 

  

 そして本篇では、著者ジェフリー・レコード博士は次の証言を引いています。 

  

 ディーン・アチソンは1941年には国務次官補であり、経済問題を担当していた。彼は真珠湾攻撃以前に次のように語っていた。 

 「わが国を攻撃すれば、日本にとって破滅的な結果になることは、少し頭を使えばどんな日本人にでもわかることだ」 

  

その通りだと思います。日本の10倍の工業生産力を持った米国と戦争すれば「少し頭を使えば破滅的な結果になる」ことは解るはずなのです。 

 しかし、当時の国家の中枢の人は詭弁を使いました。「民主主義国家の米国は長い戦争に堪えられずに途中でやめる」という詭弁で、日本を破壊に導きました 

 日本は真珠湾攻撃に突入し、自らの選択で第二次大戦に入っていきました。 

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阿部一理 記 

『賢者は歴史に学ぶ』と言われていますが、テレビや新聞のマスメディアの報道が、正しい情報を流さないとしたら、誤った情報から学ぶことになってしまいます。 

 世間を支配するためには『お金の発行権とメディアを牛耳る』と言われているのも肯けることであります。 

 

 マクロビオティックの創始者桜沢如一先生は、スペイン戦争の折『新聞報道を信じては、トンデモナイことになるぞ』と忠告されたことを書きしるしております。 

 

 現代は、統制の受けにくい情報もネットで入るようになってはいますが、それでも注意は必要です。 

今後も『歴史上のIF(もし)』と取り上げてみたいと思います。 

 

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