「エミール」その5

「エミール」フランスの哲学者ジャン・ジャック・ルソー(1712年~1778年)(岩波文庫)の上巻より、一部抜粋した言葉です。

一般に、いそいで獲得しようとしないものはきわめて確実に、そして速かに獲得される、ということだ。
エミールは十歳になるまでに完全に読み書きできるようなることは、ほとんど確実だとわたしは思っている。
それはまさに、かれは十五歳になるまで読み書きを知らなくてもたいしたことではないとわたしが考えているからだ。(185頁)

ある技術をもちいるためには、まずその道具を手に入れなければならないし、それらの道具を有効に使うことができるためには、使用に耐えられるように頑丈につくらなければならない。
考える事を学ぶためには、したがって、わたしたちの知性の道具である手足や感官や器官を鍛錬しなければならない。
そして、それらの道具を出来るだけ完全に利用するためには、それらを提供する肉体が頑丈で健康でなければならない。
このように、人間のほんとうの理性は肉体と関係なしに形づつくられるものではなく、肉体のすぐれた構造こそ、精神のはたらきを容易に、そして確実にするのだ。(204頁)

一般的にいって、人は子供に厚着をさせすぎる。
ことに幼いころはそうだ。
しかし、暑さよりもむしろ寒さによって子供をきたえなければならないのだ。
はやくから厳しい寒さにさらしておけば、それはけっして子供を病気にするようなことはない。

肉に対する好みが人間に自然なものではないということの証拠の一つは、子供が肉の料理に対して関心をもたない事、かれらがすべて、植物性の食べ物、乳製品、菓子、果物のようなものを好むということだ。
こういう本来の好みをそこなわないこと、そして子供を肉食動物にしないことがなにより大切だ。(262頁)

一般に肉をたくさん食う者がそうでない者より残酷で凶暴である事は確かなのだから。
これはあらゆる場所あらゆる時代に観察されることだ。(262頁)

あらゆる未開人は残酷だが、かれらの風習がそうさせるのではない。
その残酷さは食物のせいだ。
かれらは狩猟にでかけるように戦争に行く。
そして人間を熊のように取り扱う。
イギリスでも屠殺者は外科医と同じ様に裁判の証人にはなれない。
ひどい悪党は血をすする事によって人を殺すことをなんとも思わなくなる。
ホメロスは肉を食うキュクロプスを恐ろしい人間にしているが、食蓮人はきわめて愛すべき民族として、ひとたびかれらとつきあいをはじめると、人はたちまち自分の国さえ忘れ、かれらと一緒に暮らしたくなる。と言っている。

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